
胡蝶蘭専門店「らんや」黒臼洋蘭園では、毎年3〜4月にかけて繁忙期を迎えます。
中でも最も多くの胡蝶蘭をお届けするのが、4月1日です。
なぜこの日に集中するのか?
それは日本における「新年度」「新生活」のスタートと深く関わっているからです。
企業の入社式、学校の入学式、昇進や異動、新店舗の開業…。
人生やキャリアの節目となる出来事がこの時期に重なります。
胡蝶蘭は「幸福が飛んでくる」という花言葉を持つことから、
こうした門出を祝う贈り物として非常に人気があります。
ありがたいことに、当園でもこの時期には数千件を超えるご注文を頂戴します。
今回はこの繁忙期をどう乗り越えているのか、少し裏側をご紹介させていただきます。
繁忙期2ヵ月前──「作戦会議」が始まる

まず動き出すのが2ヵ月前。
ここでの鍵は「計画と予測」です。
過去のデータを元に注文の傾向を分析し、必要な在庫や資材の量、
シフト体制、出荷スペースの確保など、綿密に戦略を練ります。
この段階が、1年の中で最も重要な準備期間といっても過言ではありません。
1ヵ月前──いよいよ本格始動!
3月に入ると、いよいよ生産のギアが上がります。
4月1日に向けて、通常の何倍もの胡蝶蘭を生産し、温室にストックしていきます。
加えて、立札やラッピングといった資材の準備も本格化。
出荷をスムーズに進めるため、できることはこの時点で全て段取りしておきます。
2週間前──すべてが動き始める!
生産部門

らんやの胡蝶蘭はすべて自社栽培の生花。
だからこそ、鮮度が命です。
注文があっても、すぐには箱詰めせず、出荷直前まで28棟ある温室で大切に管理します。
社員たちは日々、注文数と在庫数をにらめっこしながら緻密な調整を行います。
受注センター

「らんやの司令室」と呼ばれるこの部署はまさに戦場!
電話対応、注文確認、伝票印刷など、何千件ものご注文に対応する日々が続きます。
冷房が必要になるほどの熱気の中、
他部署との連携を密に取りながら、正確かつスピーディーにお客様対応を進めます。
売店・店舗

大宮本店・小石川店の店頭も大賑わい。
地域のお客様、学校関係者、企業の方々などが大勢ご来店されます。
ネットショップとの連動も強化し、
「贈る花は直接見て選びたい」というお客様の声にもお応えしています。
1週間前──夜の部、始動!

ここからが本当の勝負です。
業務時間だけでは追いつかず、「夜の部」がスタート。
大量の胡蝶蘭が一斉に動き始め、各地の拠点への搬入が本格化します。
立札のチェック、花の下処理、ラッピング、梱包……
すべての工程をチームで分担し、丁寧かつ迅速に対応していきます。
そして、4月1日。
すべての配送手配が完了したとはいえ、当日も気は抜けません。
無事に配達が進んでいるか、トラブルは起きていないか──
スタッフ全員が神経を張り巡らせながら対応しています。
何かあればすぐにお客様にご連絡し、全社一丸でサポートに当たります。
まとめ
怒涛のような繁忙期がひと段落して、久しぶりに温室の静けさに耳を傾けると、
あの慌ただしさがちょっと懐かしくさえ感じます。
毎年少しずつ増えていく注文数に、嬉しさと責任の重さを改めて感じます。
それだけ多くの人が、人生の大切な節目に、胡蝶蘭を選んでくれている。
その事実は、生産者として本当に誇らしく、ありがたいことです。
そこには贈る人の想いが込められていて、受け取った人の心に静かに届いていく。
そんな特別な花だからこそ、私たちも手を抜くことはできません。
でも、どれだけ想いがあっても、一人ではできない仕事です。
この繁忙期を乗り越えられたのは、同じ気持ちで胡蝶蘭と向き合い、
ひと鉢ひと鉢を丁寧に仕上げてくれた従業員のみんなのおかげです。
早朝からの作業、数え切れないほどの梱包、
そして笑顔で出荷していくその姿に、何度も胸が熱くなりました。
花づくりに正解はないけれど、「良い花を届けたい」という思いが揃っていることが、
何よりも強みであり、誇りです。
これからも、贈り手と受け取り手の心をつなぐ胡蝶蘭を、
このチームと一緒に、最高のかたちで届けていきたい。
胡蝶蘭とともに、たくさんの人の門出に、
そっと寄り添える存在であり続けるために。
感謝と覚悟を胸に、また次の季節に向かって歩き出します。 園主 黒臼秀之
