胡蝶蘭の生産に携わって40年以上になりますが、
これまでに多くのお客様とお話しする中で、ある興味深い傾向に気づかされました。
それは、胡蝶蘭に対する評価が真っ二つに分かれているということです。
「胡蝶蘭は簡単で、ほとんど手がかからない」
「毎年、花を咲かせてくれて嬉しい」と語る方がいる一方で、
「何度挑戦しても枯らしてしまう」
「やっぱり胡蝶蘭は難しい」という声も根強く聞かれます。
同じ植物にもかかわらず、なぜこれほどまでに印象が分かれるのでしょうか。
生産者としての経験から、その理由をいくつかの視点で考えてみたいと思います。
栽培環境が大きく影響する
胡蝶蘭は東南アジア原産の植物で、暖かく湿度のある環境を好みます。
そのため、置かれた環境によって育ち方が大きく左右されます。
適度な温度、風通し、柔らかい日差しなど、
胡蝶蘭にとって心地よい条件が自然と整っているご家庭では、
特別な手間をかけずとも元気に育ち、毎年花を咲かせてくれます。
そういった環境に暮らす方にとっては、「胡蝶蘭は簡単」という印象になるのです。
一方で、寒さが厳しかったり、乾燥しやすい室内環境だったり、
直射日光が強く当たる場所などでは、胡蝶蘭にとってストレスの多い環境となり、
うまく育たなくなってしまいます。
この写真は、私が以前訪れた台湾で見つけた自然の蘭です。

もう何十年も人の手を加えずこんなに立派に自生しているそうです。
まさに環境さえ整っていれば自然界でも簡単に育つ
ということを目の当たりにしました。
一方で当園のある日本では四季があり、
毎年変わっていく気候の変化に悩まされながら栽培していますので、
私自身も胡蝶蘭の二面性を実感しているのは確かです。

「ちょうどいい水やり」は人によって違う

胡蝶蘭の育て方で最も質問が多いのが水やりです。
「乾かし気味に育てる」というアドバイスをよく耳にしますが、
実際にどれくらいで乾いているのかを見極めるには、
ある程度の慣れや観察力が必要です。
感覚的にうまくタイミングをとれている方は、
自然と理想的なサイクルで水やりができており、「簡単だった」と感じられることでしょう。
しかし、水のやりすぎで根腐れを起こしたり、
逆に心配して控えすぎて枯らしてしまったりと、極端になってしまうと、
胡蝶蘭はその影響を敏感に受けてしまいます。

先入観と知識の差
「胡蝶蘭=高級=繊細」というイメージから、
過剰に気を使いすぎてしまう方もいらっしゃいます。
また、育て方についての正しい情報が届いていないことも、誤った管理につながる原因です。
逆に、そうした先入観がなく、気軽に育ててみた方のほうが、
結果的にうまくいくこともあります。
こちらは秋田の男鹿市にお住まいの方から届いた写真です。

雪深く、寒い地域でも
こんなにきれいに胡蝶蘭を二度咲きさせることも出来るのだと感動しました。
この方も初めて胡蝶蘭をもらって、
最初は初心者が育てられるものではないと思っていたようですが、
HPやYouTubeを見てとにかくやってみようと始めてみたら、
意外にも簡単で気づいたら部屋が胡蝶蘭屋さんみたいになっていて、
胡蝶蘭のイメージが180度変わったと話してくれました。
まとめ
いかがだったでしょうか?
極論のようにも聞こえますが、
胡蝶蘭は「正しい環境」と「適度な管理」がそろえば、
驚くほど手のかからない植物です。
しかしそのどちらかが欠けてしまうと、途端に難しさを感じさせてしまう繊細さもあり、
これが評価を二極化する理由だと考えています。
我々生産者も、日々胡蝶蘭の「強く美しい」部分と
「繊細で弱い」部分を感じながら栽培しています。
しかしこの“両面性”こそが、胡蝶蘭の一番の魅力だと感じています。