埼玉県さいたま市。
国内最大級の胡蝶蘭専門店…国内最大級? なんだか、スゴそうだ。
なんだか、すごい施設だ…
温室には胡蝶蘭!
こちらにも胡蝶蘭!
働いている人、みんな笑顔!笑顔も咲き乱れる!
丁寧な水やり!
ここは「黒臼洋蘭園」(くろうすようらんえん)。今から38年前の1984年に創業した。その1年前の83年、千葉の浦安には「東京ディズニーランド」がオープンしているが、こちらも負けず劣らず、人を笑顔にできる魔法の国なのだ。
そんな黒臼マジックの仕掛け人が、社長の黒臼秀之社長。
「こちらの広さは8000平方メートルあります。コンビニの広さが1店舗あたり100平方メートルみたいなんで、80店舗分ですかね(笑)」…見た目とは裏腹に、なんてオチャメなんだ! ということで早速インタビューを開始。
先ほど見た温室は全部で何と27棟あるという。その中で実に年間20万株の胡蝶蘭を、パートさん、そして従業員の皆さん合わせて約90名の方々が、小さな苗から、やがてお客様にプレゼントできるくらいに立派になるまで、1株ずつ丁寧に育てているのだという。
しかも、こちらに電話なりネットで注文するだけで、きちんと梱包して、贈りたい人のもとに届けてもらうことができる。頼んだあとは、贈られた方の笑顔を想像するだけでいいのだ。
ここで胡蝶蘭について改めて説明しておこう。日本にはもともと、「東洋蘭(トウヨウラン)」や、春の蘭と書いて「春蘭」(シュンラン)という品種があった。
一方で存在するのが「洋ラン」。本来は南米や東南アジアにしか生息していないものだが、その中の1種が「胡蝶蘭」。名前の由来は、見た目がまるで蝶のようだということから名付けられたという。
気になる花言葉は「幸せを運ぶ」。名前、見た目、そして花言葉にしても、もはや、これ以上の贈り物はないだろう。
そんなギフトの最高峰を、自社の栽培工場で、この規模で作り続け、しかも直売をしていることも、黒臼洋蘭園が選ばれている理由ではないだろうか。
またこちらは13年前の2009年、現在の天皇陛下が皇太子殿下時代に「第12回全国農業担い手サミット」に御臨席された際、地方事情の御視察先としてご来園されたという、非常に由緒ある農園。これ以上の栄誉はないだろう。
「日本人の場合、花を贈ったり、もらったりという機会が外国と比べて意外と少ないと思うんです。でも、『黒臼さんの花を贈ったら、すごい喜ばれたんだよ!』と言ってくださるお客様が多い。つまり、花にこれだけの力があるということを初めて知るわけです」と言う。
特にこの2年間は、社長自身も花の力を再認識したそう。相次ぐ緊急事態宣言で経済もストップし、「花を贈る」という習慣も一時的に途絶えてしまった。そこで黒臼洋蘭園では、企業や施設など、お得意様に胡蝶蘭を無償でプレゼントしたのだとか。すると、思いがけない反響が届いたという。
こうしたお客様からの喜びの手紙は、スタッフがタイムカードを押す場所の前に張り出しているという。タイムカードを押す手にも力が入るだろう。
黒臼さんは言う。
「プレゼントする人、される人の間に入って仕事をしている私どもは、どちらからも喜ばれて、どちらからもお礼までされる。こんな素敵な商売はないと思うんです。“職業冥利に尽きる”っていうんですかね、だから、胡蝶蘭には誰にも負けたくない」
黒臼秀之社長
その意気込み通り、「農林水産大臣賞」「世界らん展日本大賞」など、これまで数々の胡蝶蘭の“1等賞”を獲ってきた黒臼さん。業界でもその実力は折り紙付きなのだ。
また、オリジナル品種の開発にも余念がないという黒臼さん。縁起の良い“右肩上がり”の胡蝶蘭「彩華(さいか)のワルツ」もその1つ。らせん状に支柱を組み、竜巻状に天空に向かって仕立ててある。
「今まで胡蝶蘭って、前におじぎをするように、下に垂れて咲くのが普通だったんです。でも上にのぼっていく胡蝶蘭もあってもいいんじゃないかと考えて、1年ほど試行錯誤を重ねて作りました。ただ最初、『こんなのどうだろう』ってみんなに提案したら『社長、何考えてんだよ』と、冷ややかな目をされてしまいましたが(笑)。でも改良しているうちに、『社長、こういうふうにすると綺麗かもしれませんね』と、いろんなアイディアが出てきたんです」
竜巻状に仕立てることで、どの角度からも花を楽しめるようになっている。この仕立て支柱と仕立て方法を特許出願すると、無事受理されたそうだ。つまり「特許を取っている胡蝶蘭」。まさにオンリーワンの胡蝶蘭だ。
そんな、“世界に一つだけの花”をスタッフ一丸となって作り上げた“チーム力”もまた、黒臼洋蘭園の強みだ。
「私達がトップダウンで言ったところで現場は良くならないんですよ。やっぱり、中でやっている方が『こういうやり方がいいんじゃないでしょうか?』って言ってくれることが一番大事。ここで働いているスタッフの皆さんには、単に黒臼洋蘭園の従業員じゃなくて、皆さん一人ひとりが『黒臼の顔』だと思ってほしいし、そう思ってもらっていると信じています」。
営業前に行う毎日の朝礼では、前日までに届くお客様からの評判を、スタッフに逐一報告。それは、必ずしも良いことばかりではなく、厳しいお言葉もあるそうだが、それも隠さずに伝えるという。
「全てフィードバックしてあげないと駄目なんです。それはやっぱり、最終的にはお客様に喜んでもらうためです」。
そんな黒臼洋蘭園には、スタッフに守ってほしい6つのルールがあるという。それが「六精神」というものだ。
「お客様に喜んでもらうためには技術向上をしなきゃいけないし、お客様の立場に立てないといけない。それを考えた時、この6つは、いとも簡単に出てきましたね」。先の朝礼では必ず読み合わせしているという。
さらに最近は叶わなくなってしまったが、東京ドームで開かれるラン展に出展した際は一緒に見に行くこともあるという。「飾る時はかなり装飾しますから、『これは皆さんの力でできたんですよ』ということを共有するためです」。
そんなインタビューの最後に黒臼さんが気になることをポツリ。「私どもは胡蝶蘭の生産者ではあるんですけど、そこで終わるつもりはさらさらないし、生産者っていうくくりでは、うちは捉えきれないと思います」。
さて、その真意とは? それは次回お話しいただこう。