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「黒臼洋蘭園の母」多喜さんが明かす物語

2022 8/30
特集・インタビュー
2022年5月31日
黒臼洋蘭園の母多喜さん

黒臼洋蘭園を語るうえで外せない重要人物がいる。その方は温室の入り口にある、タイムカードを入れるタイムレコーダーに、毎朝いるという。

黒臼洋蘭園の母多喜さん

従業員が必ず立ち寄る場所の前で、ひそかに目を光らせているビッグボスの名は、黒臼多喜さん86歳。社長である秀之さんのお母さまだ。彼女が毎日ここの前で行っているのは、支柱についているテープを外す作業。胡蝶蘭の枝を曲げる際に支柱が必要なのだが、テープさえ外せば何回でも使えるのだ。

多喜さんの生い立ち

多喜さんは、創業以前の黒臼家を知っている、まさに生き字引。その生い立ちを探っていこう。

昭和31年(1956年)、21歳のとき、美園村(現在のさいたま市緑区)から黒臼家に嫁いできたという多喜さん。もともとこちらの家では、サツマイモや麦を育てていたという。

さらには“植栽”といって、公園などに植える植物の栽培も細々とやっていたものの、それだけでは生活が立ちいかなくなったため、ご主人は農閑期、“とび職”をしていたそう。

だが、そんな一家の大黒柱であるご主人は病気を患い、42歳のときに他界。

「私は、主人がそこまでひどい病気だということは知らなかったから、泊まり込みで、そして付きっきりで看病しました。けど、帰らなかった。それでも、こういう宿命なんだなと思って頑張ってきました」。

すでに祖父は亡くなっていたため、黒臼家には女性しかいなくなってしまった。畑も植栽も、これまでと同じように続けていくのは、まだ若い多喜さんには大変だった。

しかも子どもは、末っ子の秀之さんを含めて3人。上は長女、次女がいた。

長女は当時、大学進学を希望していたという。だが、そのための学費を出せる余裕はなかった。だが、その高校の担任教師から「今はお金も借りられます。僕がそういう手続きしてあげるから、行かせてやってください」と言われたのだという。頼れる者がいない中、周囲の励ましが有難かった。

黒臼洋蘭園の母多喜さん
インタビュー中の多喜さん。時折、涙することもあった

息子さんの親孝行と廃業のピンチ

3人の子どもを抱えながら朝から畑を耕し、食事も作り、仕事もするなどして必死に生きてきた多喜さん。その背中を見てきた秀之さんが、母のことを何とか楽させてあげたいと思ったのは、ごく自然なことだろう。

そして秀之さんは花の栽培に目覚め、胡蝶蘭で身を立てて行く。もちろん、従業員も当時はここまで多くはない。まさに母と子の二人三脚で、まだ日本での本格栽培の歴史も浅い胡蝶蘭を育てて行った。

「植物は口も利かないから、なおのこと難しいんです。『のど乾いたよ』とか『飲みすぎたよ』とかも言わないから、だけど、触ると分かるんです。胡蝶蘭を触って、その声を聞いていました」。

黒臼洋蘭園の母多喜さんと胡蝶蘭

だが温室を建てて2年目のある日、悲しい出来事が黒臼洋蘭園を襲う。4棟あるうちの2棟の屋根が、何と潰れてしまったのだ。原因は、季節外れの大雪だった。

その日、本来なら雪よけのための網を稼働させなければならなかったのだが、当時は手動での開閉が基本。だが、ビニールの紐で縛ってあったため、すぐには対応できず、雪の重みで屋根がつぶれ、当然下にある胡蝶蘭も台無しに。数百万円の損失が出てしまった。

「それが今でも忘れられない」という多喜さん。「ちょうど息子が結婚してまもなくのことだったんですよね。しかも、それが起きたのが、息子が沖縄に新婚旅行に行く直前のことでした。ぐちゃぐちゃの温室を見て心配する息子に、修理業者さんが、『新婚旅行に行っている間に直しておきますから。新婚旅行は一生に1回だから行ってきてください』と言ってくれたんです」。

お写真:多喜さん63歳ごろ

埼玉県黒臼洋蘭園温室

だが、見るも無残な温室を見た秀之さんは、「やめちゃおっか…」と、胡蝶蘭栽培を廃業しようかと、珍しく弱音を吐いたという。

「そのとき私が言ったんですよ。『そんなこと言わないで。母ちゃんのお金あるから、温室、直しなさい』って。『母ちゃんがあの時、知らん顔してたら黒臼洋蘭園は終わりだった』。息子はいつも言いますね」。

黒臼洋蘭園社長秀之さんと奥様の吉恵さん

有難い言葉に押されて、秀之さんは奥様の吉恵さんと新婚旅行に。だが奥様が、沖縄に広がる海の砂浜で文字を書いているとき、秀之さんは地元・沖縄で“農業研修”。なんと、花の温室栽培をしている方のもとを訪ね、いろいろ話を聞きに行っていたという。胡蝶蘭に魅せられた男と、それを支える母。人知れず流した涙が、今の黒臼洋蘭園を作り上げている。

秀之さんはその時以来、少しでも雪が降るといった天気予報を聞けば、誰よりも迅速に温室の対応をするようになったという。

多喜さんの今

この後、思いがけなく、胡蝶蘭が日本でブームではなく文化として花開き、秀之さんは事業を拡大していった。だが、多喜さんはそんな息子さんのことが心配で、「大きくしすぎると、孫も大変だから、いくらか、とめときなよ」と、たしなめることもあったという。

多喜さんの採れたて野菜

それでも、台湾での栽培契約を取り付けるなど突き進む秀之さんに、「そこまで行ったんだったら、口出ししませんでした」と、潔く息子を見守ることに決めたとのだとか。

 10年ほど前までは現役バリバリで栽培も手伝っていたという多喜さん。今は冒頭に挙げたように支柱についたテープを外す作業のほか、畑で採れた大根やジャガイモなどを入り口に並べ、従業員の皆さんに持ち帰れるようにしてあるという。

(写真)多喜さんの採れたて野菜は毎回、好評。この日もほとんど残っていなかった

そして、これから

多喜さんは、しみじみ語る。

「主人が亡くなって来年で50回忌ですけど、あっという間でしたね。まあね、ここまで来るにはいろいろありましたけど、息子が一生懸命やってくれるし、家族も孫も優しいから、今、私は幸せです。いつも私は、仏壇に手を合わせて、『我が家を守ってってください』って、仏様とご先祖様、そして主人にお願いしてるんです」。

そして、息子さんにはこうも言う。


「息子はいつも言ってます。『これから先どういう時代が来るかわかんないけど、僕は胡蝶蘭一筋でやっていくんだ』って。だから、私は陰で応援しています」

黒臼洋蘭園の母多喜さん

そんな多喜さんは、先に挙げた、支柱のテープ外しや野菜の栽培のほか、もう1つ欠かさずにやっていることがあるという。

「田舎もんだから趣味というものはないけど、今日も院長先生に『おばあちゃんの趣味は何ですか? 何かやってるかい?』って言われたから、『何もやってないよ先生、でもいつも掃除してるわよ』って答えたの。そしたら『それが生きがいか』って言われました。私は今、掃除おばさんなんです」。

あなたもここに来ることがあったら、朝から庭掃除をしたりしている女性を見つけてほしい。その方こそ、黒臼洋蘭園の母、多喜さんだ。「喜びが多い」と書いて多喜さん。今日も、秀之さんに、ご家族に、そして従業員一人ひとりに喜びを与えている。

 

この記事を書いた人
bori

放送作家・ライター
1975年、長野県生まれ 大学在学中から放送作家として数々のテレビ番組を手掛ける傍ら、ライターとしても活動。

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