Part1、Part2と、さまざまな工程を経てきた胡蝶蘭。黒臼洋蘭園で成長してきた胡蝶蘭も、いよいよ嫁入りです。一つ一つの工程を大切にして怠らない黒臼洋蘭園ですが、胡蝶蘭がお客様の手に届くときまで決して気を抜きません。Part3では、そんな胡蝶蘭がお客様の元に届くまでの「市場出荷」「宅配」「アレンジメント」について、深掘りします。
より多くの人に胡蝶蘭を届ける調整役「市場出荷」
「胡蝶蘭を育てる親たちPart2」で、植え込み・補強までの工程を終えた胡蝶蘭たち。
これらの胡蝶蘭は、一体どのようにお客様の手元に渡っていくのでしょうか?
黒臼洋蘭園は、胡蝶蘭を「小売り」と「市場」の両方で販売しています。
小売りは、店舗やネット販売など、黒臼洋蘭園が直接お客様に販売しているものです。
そして市場は、花の市場で競りが行われ、花屋さんに販売するものです。
ここで、黒臼洋蘭園の市場出荷になくてはならない存在、新井さんにお話を伺いました。なんと新井さん、黒臼洋蘭園の創業当初から社長の右腕なんだそうです。
胡蝶蘭の生育状況に合わせた市場をピックアップ
私:「市場出荷をするまで、どんなことをされているんですか?」
新井さん:「うちは、北海道から名古屋まで、32の市場に出荷しています。僕はこの中で1番長くここにいるので、市場とか花屋さんとも付き合いが長いんですね。だからどんな胡蝶蘭が欲しいか、電話がかかってくるんです。」
私:「ということは、市場や花屋さんからどんな胡蝶蘭がほしいか依頼されるんですね?」
新井さん:「そうですね。なるべく売れる市場に胡蝶蘭を
振り分けていくんです。どんな胡蝶蘭が今売れているのか、市場に電話して聞くこともあります。」
私:「すごい…ここにきて一気にビジネスな感じですね!!」
長さのある胡蝶蘭が売れる市場
花が多く咲いている胡蝶蘭が売れる市場
つぼみが多い胡蝶蘭が売れる市場
など、市場によって、売れている胡蝶蘭は違うそうです。そして、市場ごとの需要に合わせて、胡蝶蘭を振り分けていきます。新井さんは、大切に育てた胡蝶蘭が、胡蝶蘭を必要としている花屋さんのもとへ渡れるよう、胡蝶蘭の個性に合った市場に出荷しているのです。
新井さんの黒臼洋蘭園の胡蝶蘭への愛情と、長年培ってきた市場との信頼関係がなければできない仕事なんだと感じます。
お客様の手元に届くその時まで気を抜かない「宅配」
黒臼洋蘭園の小売りでは、店舗とネットで胡蝶蘭を販売しています。
ネット販売では、胡蝶蘭を宅配便で届けます。そこで、黒臼洋蘭園で胡蝶蘭を送り出す宅配の仕事を見させていただきました。
宅配といっても、さすがVIP花である胡蝶蘭。ただ梱包して発送するだけではありません。
葉っぱの艶出し・ココヤシ・ラッピングで“贈り物”に仕上げる
宅配のお話をしてくれたのは、斎藤さんです。
斎藤さん:「胡蝶蘭がここに流れてきたら、まずは肥料などで白くなった葉っぱの艶出し作業から入ります。植物に害のない薬品を葉っぱにスプレーで拭きかけると、葉っぱが綺麗になります。」
みなさん、覚えてますか?【胡蝶蘭を育てる親たちPart1】で、台湾から来た胡蝶蘭の株に肥料をあげるとき、葉っぱが白くなっていたんです。
ですが、胡蝶蘭の多くは贈答花としてお祝いで贈られます。そこでお祝いにふさわしいように、葉っぱに艶を出して綺麗にするんですね。お祝いのお花としてふさわしい姿にするためにすることは、艶出しだけではありません。
斎藤さん:「お祝いのお花なので、補強のときに入れた発砲スチロールが見えないようにココヤシを入れます。また支柱の長さを揃えたりして形を整えてから、次のラッピングに移ります。ラッピングはよくお花屋さんでもやるように、包装紙で鉢をくるんで、お花を際立たせて豪華に魅せる作業になります。」
植え込みと補強のときに綺麗に整えた胡蝶蘭ですが、発送する前にもう一度、綺麗に整えるんです。こうして何度も何度も胡蝶蘭の形を整えているからこそ、綺麗な胡蝶蘭が届けられるのでしょう。
依頼主が安心できるように行う“写真サービス”
宅配業務をしているスペースで、なにやらカメラで胡蝶蘭を撮影している方がいらっしゃいました。
斎藤さん:「黒臼洋蘭園では、写真サービスを行っています。ご依頼主様が安心していただけるように、贈るお花の実物を撮影して、ご依頼主様にメールで送ります。」
黒臼洋蘭園は、ネットショップに掲載されている写真ではなく、実際に贈る胡蝶蘭の実物写真をご依頼主様に送っています。ご依頼主様が「こんなお花を贈ったんだ」と安心してもらえるよう、写真サービスを行っているのです。
宅配業務のスペースには、写真サービス専用の撮影ブースが設けられています。
斎藤さん:「写真サービスの撮影ではチェック項目があって、お花の規格・ラッピングの色・立札の種類をチェックして撮影をします。専用のライトを使用して、お客様に綺麗にお伝えできるようにしています。」
ただ実物写真を撮るのではなく、贈る胡蝶蘭の情報や美しさがご依頼主様に確実に伝わるよう、さまざまな工夫がなされているんですね。
胡蝶蘭のお花を守る“するり”
斎藤さん:「撮影が終わったら、お花を保護する作業に入ります。するりって言うんですけど、ビニールでお花を保護します。」
私:「本当にするりって言うんですか!?」
斎藤さん:「はい!1個するりしてみますね。お花がむき出しだと傷つけあってしまうのでビニールを下から入れてお花を保護します。後ろでクリップで留めるんですけど、クリップを外すとスルスルっとビニールが抜けるので、お客様も外しやすい梱包方法です。」
なるほど!だからするりって言うんですね!
胡蝶蘭の花をしっかり保護したのに、箱から出してすぐ、胡蝶蘭の美しさが伝わります。これなら、胡蝶蘭を贈られた方が、箱から出した瞬間から喜びを感じられるはずですよね。
ご依頼主様とお届け先様の両方のお客様を思った黒臼洋蘭園の宅配業務だと感じました。
試行錯誤を重ねてたどり着いた“梱包”
保護した胡蝶蘭を、箱に入れていきます。
この梱包も、何度も試行錯誤を重ねてたどりついたそうです。
斎藤さん:「いろいろ試したんですけど、お客様がスマートに取りやすくできるような梱包をしています。」
胡蝶蘭を入れる箱を見ると、側面にひもを通す穴が空いていました。そこにひもを通して、波縫いのようにひもを通しながら胡蝶蘭を固定していきます。すると、横揺れも縦揺れも防げるそうです。
斎藤さん:「いろいろな梱包方法がありますが、テープがついていると汚く見えてしまうんですね。なのでなるべく余計なものをつけずに、見た目もよくスマートに出せる梱包をしています。梱包ができたら、蓋を閉めて発送します。宅配業者さんにも、丁寧に扱ってもらうように伝えています。」
梱包した状態でも美しく見えることを第一に考えている姿から、黒臼洋蘭園の胡蝶蘭をいかに大切に思っているかが伝わります。
配送中も温度管理は怠らない!冬の梱包方法
斎藤さん:「胡蝶蘭は寒さに弱いので、寒い時期になると、箱の色が銀色になるんですよ。保温できる材質のものを、箱の内側と外側に貼っています。」
私:「配送中まで温度管理されているってことですね。すごいです。」
斎藤さん:「これもいろいろな方法を試してきました。この箱は、箱屋さんに頼んで開発したものです。」
胡蝶蘭の宅配業務、ただ箱に入れて胡蝶蘭を固定して発送するのだと思っていました。しかし黒臼洋蘭園では、想像をはるかに超えて、胡蝶蘭と、お客様のことを考えた宅配業務をこなしていたのです。
鉢植えだけじゃない?胡蝶蘭の新しい楽しみ方「アレンジメント」
黒臼洋蘭園の人たちを取材していると、何やらほかの作業とは違うことをしている方を見つけました。
作業していたのは、佐藤さん。黒臼洋蘭園の中で唯一、フローリスト経験者だそうです。
実は黒臼洋蘭園で販売している胡蝶蘭は、鉢植えだけではありません。
胡蝶蘭を生産する過程で、少しでも花が傷ついてしまったもの、ねじれてしまっているものなど、鉢植えの商品にできない花が出てきます。
しかし、胡蝶蘭の花自体はとても美しいものです。そんな胡蝶蘭の花をロスにしないため、鉢植えにできなくても、花束にしたり、アレンジメントにしたりして販売しています。
佐藤さんは、一体ここからどんな商品に仕上げていくのでしょう?
鉢で使わない胡蝶蘭も無駄にしない!迫力満点のスタンド花
登場したのは、よくお店の開店祝いなどで外に立ち並ぶ、お花のスタンドでした。
この日は、お祝いのスタンド花を作っているところだったんです。
胡蝶蘭の花を、ほかのグリーンや花と組み合わせながら、緑のスポンジに挿していきます。
私:「どんなことを意識しながら作っているんですか?」
佐藤さん:「胡蝶蘭は、花の重さがあるので、挿す位置で傾き方が変わるんです。それを計算して、バランスを見ながら挿しています。普通のお花屋さんのスタンド花だと、胡蝶蘭が入っても1、2本しか入りません。でもここのスタンド花は、95%が胡蝶蘭です。市場にも売ってないんですよ。」
黒臼洋蘭園が作る胡蝶蘭のスタンド花、いかに特別なのかがわかります。
佐藤さん、お話をしながらも、どんどんスタンドに花を挿していきました。そのスピードの速いのなんの!
私:「元々お花屋さんだと伺いましたが、ほかのお花と胡蝶蘭はやっぱり違いますか?」
佐藤さん:「全然違います。胡蝶蘭は別格です。スタンド花も、お店などに納品しに行くんですけど、ほかのお花のスタンド花と並ぶと、やっぱり違いますね。」
数々のお花の現場を経験してきた佐藤さんでも、やっぱり胡蝶蘭は別格なようです。そんな別格の胡蝶蘭を、たくさん生産している黒臼洋蘭園、やっぱりすごいですね。
そんなこんなでお話しているうちに、あっという間にスタンド花が完成しました。
その迫力といったら、さすが、胡蝶蘭です。
鉢植えにはできない胡蝶蘭のお花も、決して無駄にしない黒臼洋蘭園。花束やアレンジメント、スタンド花の胡蝶蘭も、きっと数々の人を笑顔にしているんだろうと感じます。
たくさんの愛情が詰まった胡蝶蘭がお客様の元へ
Part1から始まった「胡蝶蘭を育てる親たち」。台湾から苗として黒臼洋蘭園に来てから、いろいろな人の手がかかり、大事に大事に育てられた胡蝶蘭は、無事にお客様の元へと巣立っていきました。今回取材させていただいて、一つ一つの工程がすべて繋がっていて、何一つ欠けてはいけないものだと感じました。黒臼洋蘭園の胡蝶蘭がこんなにも美しく、毎日たくさんの人の元へ届くのも、きっと働く皆さんの胡蝶蘭への思いが、お客様に伝わるからなのでしょう。取材にご協力くださった黒臼洋蘭園の皆様、ありがとうございました!!